ドミノ地獄

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 繰り返し、繰り返し、学校の授業で学んできた世界平和の樹立とドミノ。どこの誰が、そんなことを考えついたのか、今となっては知る術もないし、こうしてドミノ並べていても、理解できていない。恐らく、私や島根だけでなく、世の中、この仕事に従事している大半が同じ心境だろう。 「もし、昔に戻れるならば、それを提案した奴にドミノだけは勘弁してくれって言いたいよ」 「そんなことをして、どうなる。今度はドミノに代わる作業をやらされるだけだろう。そしたら、お前はまた、過去に戻って同じようなことを言っているだろう」  私も島根と同じようなことを考えていた。来る日も来る日もドミノを並ばされ続ける苦しみ。生き地獄のような光景に私は肉体的な疲労感よりも、精神的な疲れが感じるている。その都度、思わずにはいられない。どうして、こんなことを社会は思いついたのかと。 「畜生!これからも、こんなことを続けないといけないのか!」 「島根、そのへんで止めておけ、明日もドミノ並べだろう」 「うるさい!ドミノがなんだ!ドミノ、ドミノって!ここで、ドミノの話を並べるんじゃない!」  島根はすっかり泥酔していた。こうなっては、どうすることもできない。私は店主に自分と島根の飲み代を渡して居酒屋を後にした。  そして、事件が起きたのは、その翌日であった。  私は今日も、おなじようにドミノを手にとっては指定された場所に置き、一枚、一枚を等間隔に並べ続けていた。そんな時だ。  カタ・・・。  どこからか、何かが倒れるような音がした。私はハッとして顔を上げた。音がしたのは、昨晩、一緒に酒を飲んだ島根のところだ。  酔いが醒めきっていなかった島根はドミノを置く手を滑らせた。ドミノはその微妙なバランスを崩して、まるで雪崩のように他のドミノを倒した。島根は急いで、止めようとしたが、手遅れだった。ドミノはカタカタと小さな音を立てながら、隣のドミノを倒し、そのドミノが次のドミノを倒した。やがて、それは上の階層のドミノを。端の見えないドミノを。そして、私の周囲と目の前にあるドミノを無残にも倒してしまった。 「あ、ああ・・・」  さっきまで酔いが醒めきっていなかった島根。酔いなど醒めて、顔面蒼白となり、足をガタガタ震わせていた。 「倒したぞ・・・」 「こいつだ。こいつが、ドミノを倒したんだ」
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