五日《彼》は旅立った

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今日の天気は雨。 彼は濡れる事を気にする様なそぶりもみせずに厚い雲の下を歩いてゆく。 「せっかくの誕生日、綺麗な青空が見たかった」 彼がそう雨音に掻き消される程の声量で呟く。 無常にも雨足は更に強まり、アスファルトをバチバチと叩き始めた。 「あーぁ、やっぱり俺が望めば逆の事が起きるよな」 彼は諦めた様な口ぶりで再びこう呟いた。 そう、彼が望めば全てにおいて逆の事象が発生するのだ。 物心ついた頃からずっと この理(ことわり)は守られて来た。 今日、彼は帰る場所を失った ただ単に帰りたいと願っただけで。 帰るべき場所には燃え尽きた何かしか残って居なかった。 友達も弟分も気になっていたあの子もみんな燃えてしまっていた。 孤児院は放火されたのだ。
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