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仕事中は勿論のこと、誰が相手であっても、受けとる側に聞き心地の好い答えを選ぶのは、織野からすれば当然の行為だった。
だからこうなってしまったのかと、四宮が語気を荒らげる理由が、何となく検討の付いた織野は悲しくなった。
「正直に答えて」
そう懇願する四宮は、織野の知っている四宮よりずっと重たくてしんどい男に見えた。
「本当はどうしたいの」
「別れたい」
織野が言い切る前に、織野の肩を四宮が掴む。
「いたい、あず」
「ふざけないで」
織野は大真面目だったが、『あず』と言う呼び方が、四宮には織野がふざけている風に聞こえた様だった。
「離せよ」
「こんな時まで、誤魔化したりするなよ」
「ごまかす?」
「織野さんの気持ち、俺は最後まで聞けないの?」
四宮はそう言うが、織野は気持ちを誤魔化した事がない。気持ちはいつだって織野の胸にあるのだから。
たとえ織野が何を言葉にしたとしても、それは織野の意思によるもので、当然だが、織野以外の誰かの意思よって吐かされた言葉ではない。
織野が織野の意思で選んだ言葉だ。
だから織野が『四宮と別れたい』と言うのも、織野の意思によるもので、気持ちを誤魔化したわけではない。
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