序章

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深夜。 静寂が支配するかの様に灯りの灯らない無人の廃墟の群れを、冷え冷えとした月明かりが照らし出している 。 そんな息苦しさすら覚えるような建物達の屍の中を、1つの影が蠢いていた。 歳は30代半ば過ぎだろうか。 白髪混じりの黒髪は伸 び放題で、痩せこけた顔もほとんどが髭に埋もれてい る。 身につけた元は白かったであろうTシャツは黄ばみ、ジーンズもあちこちが穴だらけで長年着古した様子が伺える。 浮浪者然とした男は覚束ない足取りで、さながら夢遊病かのように町がまだ活気に満ちていた時はメインストリートだったであろう広い道路をさ迷う。 やがて男は不意にビルの片隅に視線をやったかと思う とそこにあった薄汚れた青い容器ーーポリバケツを見て目を見開いた。 「ひっ、ひぁー!あはははっ!」 狂気的に歓喜の笑みをその顔に浮かべ、男は飛び掛からんばかりの勢いでポリバケツへと飛び付いた。 男の突進によってポリバケツはあっさりと倒れ、その 中に詰まっていたモノが地面にぶちまけられる。
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