序章

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しかし中身が地面へと溢れるのと同時に、辺りに鼻をつくような異臭が立ち込める。 異臭を放つそれはどす黒く変色してはいるが、それは間違いなく人間の排出した汚物ーーすなわち、糞尿の塊だった。 常人の神経を持つ者であれば、その光景と刺激臭に嘔吐を余儀なくされるだろう。 しかし男はただ顔をしかめただけで、すぐ汚物にまみ れた地面とポリバケツから視線を外した。 「……?」 ふと視線を逸らしたその先にあったものを見て、思わず男は目を瞬かせた。 そこに居たのは、小さな子どもだった。 歳は定かではないが小柄で華奢な矮躯から、10代半 ばという所だろうか。 まず目を引くのはその短く首筋付近で切り揃えられた白髪だろう。 立てた膝に顔を埋めるように座り込んでいるので表情はおろか性別すら定かではない。 身に付けているのはあちこちがほつれた薄汚れた病院の入院着だけで、装飾はおろか靴すらも履いていない 。
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