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ナレーター
「その日──イタリア、ミラノにある世界でも有数のサッカー競技場である<ジュゼッペ・メアッツア>は異様な雰囲気に包まれていた。騒然としているのではない。それはこの場に於いては日常的なことだ」
ナレーター
「しかし今、その日は本来ならば、地元ホームチームが近隣の宿敵チームとの決闘を迎えるはずの試合当日だと言うのに──スタジアムの観客席は、皆空っぽだった。客だけでなく、試合をするはずの選手もいない。晴れ渡った空のもとで、恐ろしいまでの静寂が、その空間に広がっていた
ナレーター
「その上を、飛行船がゆっくりと舞っている。試合が行われていないのに、まるでその競技場のピッチ上を撮影しているかのように滞空している。その飛行船には目立たない程度にデザイン化された書体で<スピードワゴン>と書かれている」
ナレーター
「その搭乗員たちは、誰もいないスタジアムを見下ろしながら、緊張した顔でうなずきあっている。そして手にした通信機で、どこかに連絡を取る」
搭乗員
「問題ありません──スタジアム周辺には誰もいません」
ミスタ
「了解した」
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