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そして、しばらく後。浅葱は店の裏口でソワソワとお空を待っていた。
白夜は腹がふくれたのか先ほどから小さくいびきをかきながら浅葱の懐で眠っている。
浅葱はそれを他人に聞こえないようにそっと手で隠している時。
「お待たせ、浅葱。じゃあ行きましょうか?」
裏口の暖簾を上げながらお空が現れた。
「は、はい。」
浅葱は慌てて懐から手を出し頷く。
「三竹屋さんに行きたいのだけれど、母上に海崎屋さんに寄って来てと頼まれたのよ、どっちにいきましょう?」
海崎屋とは境の方からの荷を扱っている廻船問屋である。
お空の言う三竹屋という小物屋とは少し距離があり、その間に松屋はある。
「先に海崎屋さんに行ってはどうでしょうか?この間上物の砂糖が入ったとお聞きしましたから。」
「あら、それは知らなかったわ。じゃあ、海崎屋さんからいきましょうか。」
<そうだそうだ!さっさといけぇ。>
浅葱に茶々を入れる白夜。
見つかる、見つからないを全く気にしない物言いに浅葱は内心冷や汗をかく。
案の定、お空は怪訝そうな顔をすると辺りを見回してから口を開く。
「浅葱、何か言いました?」
「い、いえ。風が強いですから…お客様の声でもお聞きになられたのではありませんか?」
残念ながら風はそよ風程度にしか吹いていない。
浅葱も言葉を口にしてからそのことに気がつき、焦る。
「そうかしら?」「そんなことよりお嬢様、早く出発しないと日が暮れてしまいます!」
さらに眉をひそめるお空に慌てて言う浅葱。
こんな隠し方で憑き物持ちだとばれないのが不思議である。
憑き物持ちとは、オサキモチ、犬神付きなどの血筋のことで、農村部では食料や銭を主人の元に運んだり、悪さをすることからあまり良い顔をされない。浅葱自身もその事をよく知っているため、白夜の事、妖怪を見、話せることを松屋の人々にはあかしていない。
「それもそうね。行きましょうか?」
お空はふわりと笑った。
浅葱もつられて微笑む。ただ、内心は冷や汗を拭ってため息をついていた。
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