再会は悲鳴と供に

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「お嬢様…何故甘味屋なのですか?」 浅葱はお空に引っ張り連れられてきた場所に驚く。 「ダメかしら?」 可愛く首を傾げるお空。 「ダメではありませんけど…松屋でも食べること、できますよ?」 「偶には別の店の物も食べてみたいと思わない?」 そんなものだろうか? 浅葱はそうですねと頷きながら内心は首をひねる。 ここで素直に疑問を口にしてしまえば長く待たせてしまったお嬢様を怒らせてしまう。 浅葱はそう判断した。 浅葱の返事を聞くとお空は嬉しそうに店の暖簾をくぐる。 浅葱もそれに続く。 松屋のように混み合った店内でなんとか席を確保すると二人は並んで長いすに座り、壁の品書きを見る。 「お雪ちゃんによると椋木屋さんは餡蜜がおいしいそうよ?」 お琴の教室が同じ、越後屋の娘の情報を嬉々として話す姿は普段店で見せる大人しい大人びた女性であるお空とはまったく違って、年相応の可愛さがある。その姿に一瞬顔を赤くする浅葱。しかし、注文を取りに来た娘を見て、自分の普段の苦労を思い出す。 なかなか決まらない客を浅葱はあまり好きではない。 「そ、そうですか、ではそれに「いやいや、椋木屋さんのおすすめは、蕨餅ですよ。」………総次郎様!?」 娘に言おうとした浅葱の言葉に被せるように横から言葉が飛んでくる。 その聞き慣れた声に浅葱が驚いて横を見ると、若い武士の出で立ちをした美人がニコニコと笑っていた。 一見女性かと見間違うほど整った美人顔に優しい雰囲気。 そして、彼の前に山のように積まれた皿の山。 彼は松屋の常連客で、名を総次郎と言う。 <おぉ!乙女侍!また一人大食い大会してら!ケケッ!> 白夜が楽しげに言う。 幸い浅葱にしか聞こえていない声だ。 総次郎が松屋に来る度に浅葱にそう言って笑うため浅葱は彼に聞こえているのではないかといつも冷や冷やしているのだ。
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