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<おいおい、俺が寝てる間に何があったんだ?>
白夜は目を覚まして驚いたように声を上げた。
もちろん浅葱にしか聞こえない声でだ。
「今、仁和寺に向かってるんだよ。」
<お前らは恋人か!!>
浅葱から帰ってきたあまりに幸せそうな声に白夜はあきれたようにツッコむ。
<この間は「お空お嬢様は私なんかには似合わない」とか「私はお嬢様が幸せになってくれればそれで良い。」とか妙に男前なことを言っていたせに…あの時の浅葱はどこにいったんだか。>
「勘違いするな。今だってそう思ってるさ。」
<はぁ、その言葉を信じてるぞ。>
「わかってるさ。私は松屋に根を下ろすわけにはいかないからね。姉さんを見つけるまでの居場所ってことぐらいわきまえているさ。」
不貞腐れたような浅葱の声に白夜は再び溜息をつく。
<別に絶対探さなくてはいけないわけじゃないだろ?お前がそう望むならお空と結婚して松屋の一族にはいりゃあいいじゃないか。>
浅葱は彼の横を歩くお空を見る。
まるで天神祭に連れて行ってもらえる童のようにはしゃいでいる彼女に何とも言えない感情がこみ上げてくる。
白夜の言葉を借りるなら、この感覚が「恋」というものらしい。そして同時に感じる戸惑い。
本当に私のように人には見えないものが見え、話せて、人ならざることのできる自分が彼女を好きになってもよいものか?
母さんや父さんのように、姉さんのようにみんなを不幸にしてしまうだけではないのか?
「浅葱?どうしたの?」
「へ?えぇ、いや、いつも如月桜しかみないものですから、桜の木が多く集まるとどうなるのかと思っておりました。」
「浅葱もまだまだ子供ね。」
「は、はぁ。お嬢様はご覧になったことがあるんですか?」
「小さい時に一度だけ。兄さんといっしょに母様にお稲荷さんに連れて行ってもらったの。すごくきれいで、的屋さんも来ていてキラキラしていたの。」
お空はうっとりとそう言う。
浅葱は桜を見たことはある。しかし、お空の見たようなお祭りとしての桜ではなく、山の中にある桜、人の世界から切り離され、誰にみられることなくひっそりと咲き乱れている桜だ。
「それは楽しみです。」
浅葱は先程までの葛藤を吹っ切ると心の底から楽しみだと口にした。
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