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「本当に申し訳ありません。」
「気にしなくてもいいわよ?浅葱はあんまり縁日とは無縁そうだったものね。はしゃいでしまっても仕方ないじゃない。」
まるで捨てられた子犬のようにシュンとして落ち込む浅葱。お空は浅葱が父、一太郎に拾われて、店に来た時の様子を思い出しながら、浅葱をやさしく慰める。
(あのころは、身なりこそ不潔ではなかったけど、なんというか、殺気立っていたからなぁ。)
お空は昔のことを思い出し、今ではすっかり丸くなった浅葱がなんだかうれしかった。
(そういえば、私が浅葱を男性として意識するようになったのはいつからかしら?)
お空は自問自答して、最終的には頬を赤く染めた。
お空がそんなことを考えているとはつゆ知らず、浅葱はしばらくうつむいて落ち込んでいたものの、お空の必死の看病(?)のおかげで立ち直ることができた。
そして、ふたりは桜の海の中に楽しげに話しながら歩き出す。
<こんだけ恋人同士ぽいことしてても姉弟にしか見えないとぁ…>
白夜はこっそりとため息をついた。
白夜は別にお空と恋仲になり、松屋を浅葱に次いで欲しいとは思ってはいない。
まぁ、普通の人間の幸せで考えるなら願ってもない話だが、浅葱にはある目的がある。
松屋にいるのは偶々であり、いずれはきっと出ていかなくてはならない。それが憑神の一族の定めであり、現実。
人外が見える者はやはり人外と同じなのかもしれない。
(それでもできるなら姉貴のことなんか忘れて松屋で幸せになってほしいんだがな…。)
白夜はそう思っているが、ここのところだけは、何年一緒にいても相棒の思考は読み取れない。
白夜は浅葱の事情を知っている。
姉を探す理由も、何もかも。
さらに、その感情を持つ者の末路も長く生る中で幾度となく目にしてきた。
浅葱の相棒として、そんな末路を浅葱には辿って欲しくはない。
(はぁ、らしくもないこと考えちまったなぁ)
白夜は何時もの小馬鹿にしたような笑ではなく、自傷の笑い声を小さく吐いた。
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