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「浅葱、ちょっと私買いたいものがあったから行ってくるわ。」
しばらく歩いてひときわ大きな桜の古木の前に来た時お空がそう言った。
「しかし、悪い連中もおります。私も一緒に「大丈夫、大丈夫。」ですが…」
浅葱は困ったように眉をはの字に曲げる。
牡丹雪のようなふわふわとした花の塊を枝に飾っている巨木は二人をやさしく見守っている。
しばらく浅葱が一方的に言い負かされる会話が続き、最終的に浅葱は折れてお空は嬉しそうにパタパタと人ごみに消えていった。
「白夜・・・」
<わかってるぜ、心配性。>
白夜も姿を人型に―薄い黄色の少し派手な色合いの着物に茶色の髪の元気に井戸端を駆け回っていそうな少年に姿を変え、お空を追いかけて人ごみに消えていった。
はぁ、まったく…俺がこんなことに頭を悩ます日が来るなんてなぁ。
浅葱は心の中で呟き、一人称に違和感を感じた。小さいときは、「おいら」。少し成長してからは「俺」という一人称を使っていてはずなのに、松屋でたった三年ほど「私」でいただけで今はそっちでないと落ち着かないらしい。
(俺が…いや、私がこんな幸せでいいのか?
早く姉上を見つけて…見つけて私はどうしたら良いのだろうか?…殺すのか?
姉上を?
確かに今まではそれが生きる目的だった。だが…本当にそれでいいのか…わからない。)
浅葱はぼんやりと古木にもたれかかり花を眺める。
美しい花に自分が悩んできたことすべてがばかばかしく感じられた。
「私もそろそろ成長しなくてはいけないのでしょうか?」
「いいんじゃないかしら?でもあなたが人並みの幸せを望むのかしら?…縹。」
「!?」
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