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春風と供に消えて行くはずのつぶやきへの思わぬ返事に、
背後から聞こえた、懐かしい、聞き覚えのある女の声に、
浅葱は飛び上がらんばかりに驚いた。
「振り返らないで。ここにいる人間を犠牲にしたい?あなたの大切なお嬢様とか?」
最後に聞いた声よりもいくらか低くなった、昔より言葉の端々に鋭さがわかる声。
しかし、間違えるはずのない、ずっと探し続けていた声。
「蘇芳姉さん…」
「振り返らないで。ここにいる人間を犠牲にしたい?あなたの大切なお嬢様とか?」
昔より少し低くなった声、さらに言葉の端々に鋭さがわかる。だが、聴き間違えようのないずっと探し続けていた声。
「蘇芳姉さん…。」
「久しぶりね、縹…ふふ…今は浅葱って名前なのね。」
浅葱は苦虫を噛み潰したような顔をしながら声、姉の蘇芳に従う。彼らの過去の出来事から、浅葱は姉が本当に周りの人間の一人や二人簡単に殺害してしまうだろう。いや、寧ろ一人二人ならまだマシだ。過去の経験からすれば、この寺にいる全ての生物を殺すことも蘇芳にとっては簡単に違いない。もちろん白夜が付いているお空は安全だが、万が一がある。
「ここで何をするつもりだ?花見というわけではないんだろ?」
浅葱はつい口調が鋭くなるのを感じる。
それほどこの二人の溝は深い。
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