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「御心配おかけいたしました。」
「本当に。具合が悪いならちゃんと言ってくれないとわからないわ。」
「すみません。」
<これじゃあ、やっぱり姉弟だな。>
長椅子に座って申し訳なさそうに縮こまっている浅葱に、諭すように言うお空。白夜が言うようにまるで姉弟のようだった。
「もう帰る?あ、でも帰ったら母さんに働かされるから休んでるどころじゃないし…もう少しここで休む?」
「い、いえ。あまり帰りが遅いと心配されますし、二人も抜けたら松屋は今頃大変でしょうから、帰りましょう。…梅吉達にも文句を言われてしまいます。…でも…でも、お嬢様が嫌でさえなければ…是非また…またお祭りとか…一緒にいきましょう。」
<お前は乙女か!!!>
白夜は間髪いれずに、お笑い芸人が感心するほど切れのあるツッコみを繰り出す。
まぁ、お空には聞こえてはいないのは当然ながら、浅葱も今の歯が浮きまくりの台詞を言ったことで茹蛸ならぬ茹浅葱が再来し、白夜のツッコみを聞く心の余裕など一片たりともない。
誰も聞いていない白夜のツッコみは、桜の花びらを散らす春風とともに儚く空に消えていった。
「は、はい。ま、また行きましょう…今度は天神さんでも、祇園さんでも。」
お空もまた顔を赤くして答える。
<初々しいを通り越して、うざくなってきたな。>
白夜はもはや呆れてそう言った。
「本当に、ご心配をおかけしました、お嬢様。もう本当に大丈夫ですから家に帰りま「きゃああああぁぁぁぁぁ」
浅葱が立ち上がり、言葉を口にする。
それが言い終わる寸前、そう遠くないところから女性の悲鳴が聞こえる。
そして、それを口切にしたように人がざわめき、いくつかの悲鳴が重なる。
――――「せっかくここで巡り合ったのだから面白いものを見せてあげるわ。」
姉の言葉を思い出し、浅葱は戦慄する。
(あの人が何か起こしたんだ。)
そう思った瞬間には浅葱は走り出していた。
懐の白夜が、置き去りにしたお空が何か言っている。
しかし、それを聞いている余裕は浅葱にはない。
(行かなくては!!
食い止めなくては!!
また、あの人のせいで誰かが、何かが傷ついてしまう!!)
浅葱は必死に何かから逃げてくる人の波に逆らって騒ぎの現場に向かって行った。
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