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<そうですか。まぁ、深い事情があるのは貴方に始まったことではありませんが…とは言え、今回の騒ぎ…お上にも報告の必要がありそうですから、嫌でも話してもらうしかないんですがね。>
河伯と呼ばれた青年は少し申し訳なさそうに眉を潜めてから、浅葱にそう言い、命こそ助かれど、美しい着物や体に酷いやけどを負った桜の精霊を優しく抱きあげる。
「えぇ。話しますよ。それよりも今は彼女をお願いします。」
<もちろん。>
浅葱は河伯に言うと、彼は口元に微笑を浮かべながら言う。
<あ、そういえば…古き種族達…私や酒呑、土蜘蛛が京に呼ばれました。…どういう意味か…あなたならわかりますね?>
「…お上は都を破壊するおつもりですか??」
<ハハ、確かに。ですが自体がそれほど深刻ということですよ。…桜の精霊の火傷からとんでもない輩の力の破片が見つかりましたから。>
河伯はふっと笑うとすぐに真剣な顔をして言う。
<いづれわかることでしょうから、先に申し上げますと…その輩というのが、あなたの相棒…白夜と深い因縁を持つ輩でしてね…貴方も巻き込まれる可能性が大変高い。白夜と別れるか、居場所を捨てるか…辛い二択ですね。>
河伯はそっと目を伏せると雨に溶けるよに消えた。
「…そんなこと…選べるはずがない。」
浅葱はポツリとつぶやく。
だが、どちらかを選ばなければ、双方を失うことになる。
浅葱は無言で立ち尽くす。
姉のこと
河伯に言われたこと
自分の気持ち
何もかもがわからなくなってきた。
私は何を捨てられるのだ?
私は…何を選べばいいのだ?
「浅葱!」
立ち尽くす浅葱に人混みをかき分けてお空が駆け寄る。
「この馬鹿!いきなり走り出して、心配したじゃないの!」
浅葱の着物の裾を握るお空の手は微かに震えていた。
あぁ、私は…あの頃とはもう違うんだな…。
何も捨てことがなければ、いや、何も捨てることのないように…未然にできるだけ手を打とう。
そして、もし捨てる時が来ても…誰も悲しませないように…私が…。
浅葱はお空に優しく微笑んだ。
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