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「すみません。」
「すみません。じゃないわ!私がどれだけ心配したと…。」
瞳にうっすらと涙を浮かべながら言うお空。
浅葱はアワアワと焦って懐に戻ってきた白夜に助けを求める。
「白夜!助けて!」
<自業自得だ、馬鹿浅葱。>
浅葱の必死の叫びは白夜の欠伸とともに一蹴された。
「お嬢様、本当にすみません。人だかりがつい気になってしまって。」
「ついじゃないわよ!!もぅ、次どこかに行ってしまっても探しませんから!!」
「そんなぁ…。」
プイッとそっぽを向いてしまったお空に浅葱焦った表情をクシャリとゆがめて弱気な声を出す。
そして、二人はすっかり痴話喧嘩に夢中で忘れている。ここが家事の現場で、賢い野次馬たちは後に現れる面倒を敏感に察知し消えているということを。
「あ、浅葱さん、お空さん!さっきぶりです!」
「「えっ?」」
しょんぼりとまるで叱られた犬のような雰囲気を醸していた浅葱と、ふいっとそっぽを向いていたお空につい先ほど聞いたばかりの人物が声をかける。
慌てて二人はそちらを見て…そして絶句する。
そこにはニコニコとこちらに手を振る総二郎…いや、浅葱色の羽織を羽織った顔に「不機嫌」と書いてある男に首根っこを掴まれ、引きずられてくる沖田とそれを苦笑いして見ている同じような服装をした、見るからに強者という風の男達がいた。
今、京の都で浅葱色の着物と言えば物騒な名前しか思いつかない。
壬生浪士組、通称壬生浪が総二郎を引きずって現れた。
((この人私達と別れた短い時間に何したんだ??))
浅葱、白夜は絶句し、お空に関しては思考を停止して固まっている。
そりゃ、常連客が京を騒がす浪士集団に引きずられて、なおかつニコニコとしていたら…誰でも固まるに違いない。
「どうしたんですか?そんな鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して?」
豆鉄砲を撃ってきた張本人がいう。
「そ、総二郎様??な、な、な、何をなされたんですか??」
お空は口をパクパクとさせるばかりで、浅葱もかなり混乱して、声を出す。
もちろん若干裏返っている。
「どうした…と言われましても…?」
言われた総二郎は首を捻る。
「先生のお知り合いですか?」
そう言ったのは、不機嫌そうな顔の男。歳は浅葱と同じくらいだが、不機嫌に顰められた顔が見た目を老けて見せている。
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