如月桜が燃え、総次郎は実はすごい人である。

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数百年先の世では、毎夜恋人が座り、若者たちが夜を楽しむ鴨川河原に一組の花見客がいた。 <ガハハ!おい!九鬼ー、お前まだのめるだろぉー?> <ぇっ…は、はい…酒呑童子様…。> その客たちは、異形の者たち。頭から角を生やした鬼と呼ばれる一族のものや、人丈ほどある狐やら狸やらもいる。 そして、その中の一人、まだ二十歳ほどの青年は、とうの昔に限界に達していた飲酒量の為吐きそうになりながらも、上司の次ぐ酒を震えながら飲んでいた。 上司はと言うと、そんな彼の様子など気にすることもなく、酒瓶からさらに多くの酒を盃に並々と注いでいる。 彼以外の仲間たちは等に上司に潰され、周りに屍のように倒れている。先の世の男女がこの光景をみたら裸足で逃げ出すに違いない阿鼻叫喚だ。 この一杯を飲んだのち、彼もその屍の中に混ざるだろう。 <なんらぁ?くぅきぃ?のまにゃーのかぁ?> もう1人の上司である狐狸は屍の仲間入りはしていないものの、酔っている。 彼は最初はあまり飲むなと止めていた上司のまさかの寝返りと彼による急所を打つ鋭い攻撃にもう打つてがない。 (ぁあ、茨木童子様…私はもうダメです…せめてあなた様がいらっしゃれば…。) 彼は覚悟を決めて盃に口をつける。中に波並みとつがれているのは普通なら美味しいはずの酒だ。それがまるで切腹前の侍のような、毒薬を無理やり飲まなくては行けない西の国の物語の主役のような無念に満ちた雰囲気のまま、彼は盃を傾けようとした。 その時 <馬鹿童子!なにしとんじゃぼけぇえええ!> 救世主が現れた。 救世主は白い少年と、青い青年、桃色の少女と人間だった。 (あぁ、白夜様…河伯様…木花知流姫様…。) 彼、九鬼の意識はそこで途絶えた。 手から滑り落ちた杯は、音を立てることなく河原に転がり、中身を静かに草木の糧として地面に染み込ませた。
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