如月桜が燃え、総次郎は実はすごい人である。

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「大丈夫ですか!?」 男の脇の下に手を入れて抱きかかえるように川から引っ張り出す。 背中に負われた箱が腹に食い込むが、気にしてはいられない。 「ゲホッゴホッ…あー、ゲホッ助かりゴホッました…ガホッって浅葱?」 引きあげた男は噎せながら浅葱の方を向き、浅葱に盛大に口の中に溜まった水を飛ばしながら言った。 「なんだ…助けなきゃよかった。」 浅葱はその男の顔をみた途端川の水より冷たい目をして男から手を離す。 バシャ 「うぇっ、何しやがる!怪我人だぞ!け・が・に・ん!もう少し優しく扱え!」 「佐之助にやる優しさなんて一滴も残ってないから。」 浅葱に冷たく見放された男、佐之助は川の流れの中に尻餅を尽きながら怒る。 「なんだよ、そんな冷たい子に育って…昔は素直ないい子だったのに!」 「その素直な子供に蠱毒の壺やら呪いの人形詰合せとか贈ってくれたのは誰でしたかね?」 浅葱の言うとおり、まだ浅葱が小さい頃佐之助はよく玉藻のところにやって来ていた。 それだけなら他の妖怪も似たようなものだが、佐之助は毎回土産と言ってはまだ贈り物とはお世話にも言えないようなもの、例えば、共食いがギリギリ起こっていない、蠱毒の壺…要するに腹ペコの毒蛇がわんさか押し込まれた壺 やら佐之助の仕事上引き取らざる負えなかった呪いの人形…髪が伸びるものや外の国のものや、藁人形や夜中にいきなり笑い出すものやらがこれまた大量に詰め合わされた箱を浅葱に事あるごとに渡した。 結果? まだ幼い浅葱は素直に喜んで開ければ、蛇には噛まれそうになり、人形には三日三晩魘された。 それを佐之助は爆笑しながら見ていたのだから、浅葱が優しくできるわけがない。 おかげで浅葱は今も人形と蛇は大嫌いだ。 しかもこの男、妖怪よりも達が悪いくせに人間らしい。小さい頃も今も全く姿が変わっていないのが引っかかるが、とりあえず人間らしい。 「で、なんで川流れしてたんですか?佐之助は桃に転生したんですね。」 「いや、いくら俺でも桃はキツイな…あって河童かな?」 <貴方が河童に転生したら生まれた瞬間に切り刻んであげますよ。> 間髪入れずに説教中の河伯から鋭い声が飛んできた。
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