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<もう一個いただき!>
「さんざん文句を言ってまだ食うのか。」
天むすにしろよとかさんざん文句を言っておきながらも腹が減っているのか、最後の一つの握り飯に前足を伸ばす白夜。
それをみながら浅葱はため息をつく。
妖怪ならば食べなくても生きていけるだろうに。
基本的に妖怪は物を食べなくても生きてゆける。
強いて主食と言えるのは、人の気持ち。
桜の精霊は人が桜を愛でる気持ちを食べ、夜道で人を脅かす妖怪は恐怖を取り込み存在を保。どうしても生きていけなくなれば、「向こう側」と浅葱が呼ぶ世界に行く。
「向こう側」では妖怪も人間と同じように生きていると言う。
浅葱は言ったことがない故、周りの妖怪から話を聞く限りのことであるため真偽は謎である。
「まったく、結局私は一つしか食べてないじゃないか。白夜はどうせ懐の中で寝ているだけなんだから食べ物、いらないだろう?」
<浅葱が思ってるほど俺は暇じゃないんだな~。>
機嫌良さげに言う白夜。
いつの間にか楊枝を出して器用に歯の掃除をしている。
そんな白夜に言われても説得力は欠片もない。
「ハイハイ、忙しいんだね。じゃあ、今度私の作った饅頭でも食べるかぃ?」<それはいらない。>
浅葱の提案に間髪入れずに言う白夜。
浅葱は菓子作りが下手である。いや、下手の域を通り越して危険の域である。
彼が厨房にたてば、餅は爆発物に、餡は毒薬に変わる。
本人は言われたとおりに作っているのになぜかうまく行かないのだ。
松屋に来た当初はそのことでかなり辛い思いをしたが、女受けする容姿の浅葱と美人と評判の松屋の娘、お空が接客をする事で売り上げが倍になったことから、浅葱は接客専門の奉公人となった。
そして、そのことを知っている他の奉公人達も浅葱を責めることはしなかった。
ちなみに、菓子以外が普通に食べられる料理が作れる。
浅葱も白夜もそのことをよく知っているため、浅葱の脅し文句は「私の作った菓子を食べさせるよ?」になったのだ。
ついでに、白夜は浅葱が修行時に作った大福で一度死にかけた。
妖が死にかけるほど浅葱の作る菓子は恐ろしいのだ。
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