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「はぁ…まったく、食い意地の張った妖怪なんて白夜くらいじゃないか?」
<んなことねぇぜ?妖怪にも色々いるからな。>
「食費を払ってもらっている妖怪はおまえだけだろ?」
尻尾でパタパタと畳をはたきながら握り飯にかじり付いている白夜を見ながら再びため息をつく浅葱。
それを笑おうと食う手を止めた白夜の耳がピクリと動く。
<よかったな、浅葱。お嬢様と二人きりだぜ?>
「じゃあ、早く戻れ。」
あざけりの言葉の代わりにニヨニヨと笑いながらそう言う白夜。対する浅葱の顔は少し赤い。
それをみてさらに耳まで裂けた口でニヤーと笑うと白夜は残りの飯をぱくりと飲み込みむ。
そして、再び小さくなると浅葱の懐に潜り込んだ。
それと同時くらいに部屋の障子がスススッとあけられる。
梅吉達が着物を散らかしておかなくてよかったよ。
偶に片づけ忘れるとグチャグチャになる部屋は若いお嬢様には目に毒だ。
どう毒なのかは言及はしない。
「浅葱?もう昼餉は食べ終わりましたか?」
「はい、たった今。」
浅葱は振り返って頭を下げる。
「じゃあ、私の買い物に付き合ってくれません?」
浅葱はその言葉に下げていた頭を驚いてあげる。
色白の肌、黒い大きい目、筋の通った鼻、そしてそれらを引き立てるような薄い桜色の着物。浅葱と同年代の美人お空がほんのりと頬を朱に染めて浅葱を見ていた。
「もも、もちろん!」
浅葱は顔がカッと熱を持つのを感じた。
懐から白夜が「ケッ」と鼻で笑うのが聞こえたが、浅葱には聞こえていない。
「本当に!?」
お空は凄く嬉しそうに笑うと「じゃあ、母上に言ってくるわね。」と嬉しそうに部屋を出ていった。
<浅葱、玉の輿おめでとうさん。>
遠ざかるお空の足音を聞きながら白夜が言う。
「そ、そんなんじゃないさ…たぶんお嬢様には私は弟みたいなものだから気にかけてくださるんだよ。」
<まんざらでもないくせに、どの口がそう言うんだか。>
浅葱の言葉にヤレヤレとため息をつく白夜。
浅葱は咳払いを一つすると握り飯の載っていた皿を手に取ると「さぁ、準備しなくては。」と誰に言うでもなく言うと部屋を出た。
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