289人が本棚に入れています
本棚に追加
コンコン。
「ーー入りなさい」
「失礼します」
入室を許可された私は、扉を開けると部長室に足を踏み入れた。中には部長が大きなデスクの後ろに佇み、窓の外を眺めていた。
「何か用かな?」
そう言ってこちらを振り向く姿に、最初に軽く挨拶した時とは違う、何とも言えない威圧感を感じた。
この部屋の主ーー上條賢一郎は、その鋭い視線を私に真っ直ぐ向けた。
その瞳と同じく黒く艶のある髪は、前髪を少し残している以外は全て後ろに流している。
そして整った顔には、42歳とは思えない程の微かな皺が刻まれており、パリッとした上質のスーツに背筋の伸びた長身は、誰かを彷彿させた。
「少しお話があるのですがよろしいでしょうか」
「…構わないよ。座りなさい」
そう手前のソファに促されたので、素直に腰を下ろす私。そして上條部長はテーブルを挟んだ向かいのソファに腰掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!