第1章

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コンコン。 「ーー入りなさい」 「失礼します」 入室を許可された私は、扉を開けると部長室に足を踏み入れた。中には部長が大きなデスクの後ろに佇み、窓の外を眺めていた。 「何か用かな?」 そう言ってこちらを振り向く姿に、最初に軽く挨拶した時とは違う、何とも言えない威圧感を感じた。 この部屋の主ーー上條賢一郎は、その鋭い視線を私に真っ直ぐ向けた。 その瞳と同じく黒く艶のある髪は、前髪を少し残している以外は全て後ろに流している。 そして整った顔には、42歳とは思えない程の微かな皺が刻まれており、パリッとした上質のスーツに背筋の伸びた長身は、誰かを彷彿させた。 「少しお話があるのですがよろしいでしょうか」 「…構わないよ。座りなさい」 そう手前のソファに促されたので、素直に腰を下ろす私。そして上條部長はテーブルを挟んだ向かいのソファに腰掛けた。
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