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「君の素顔を僕に見せてはくれないか。辛かった事や悲しかった事を話してくれないか」
私が黙っていると、上條部長は私の肩に置いていた手を、首筋にそっと這わせた。
「君の、その仮面を剥がした顔が見てみたい」
私の耳元で囁くその声は、ゾッとする程妖艶で、心臓が凍りつく思いがした。
ーーーーだろう。私以外なら。
「恐れ入りますが、上條部長に晒す事が出来る程、私の面の皮は薄くはないと自負しております。深沢りりあ職員に注意されないと仰るなら、本社に報告させていただくまで。迅速に回答をお願いいたします」
一気に言い放つと、沈黙が訪れた。
その沈黙が何を現すかは分からないが、気まずい雰囲気も相手の沈黙も慣れっ子だ。
私はじっと答えを待った。
「あはは!本当に気に入ったよ君!」
返って来た答えに、内心舌打ちをする私。何となく、そう来るかもしれないとは思ってはいた。
こういう相手は厄介だ。次の行動が読み辛い。
まだ怒ってくれた方がマシだ。
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