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[chapter 2]
(いい月夜だ…。百年生きた中でも、今日は特別月が輝いて見える。)
おもむろに百年の月日を過ごしてきた洞穴を振り返る。
明日、原初から知識と力を授かり、自己を確立させる名を得たら、ここを出て新しく住む場所を見つけなくてはいけない。
成人したばかりのまだ名もなき竜は、わずかな寂しさを感じつつ、月に視線を戻す。
「眠れないのか。」
「…あぁ。」
出てくる気配に気付いていたのか、特に驚きもせず答える。フェオドールはゆっくりと息子の横に立つと、同じように月を見上げた。
成人したとは言え、体高はおよそ二メートル程しかない。まだまだ若い彼は、自身の倍以上ある父親の姿を横目で盗み見た。
身内贔屓かもしれないが、チフェに負けず劣らず立派だと思う。
流線型の引き締まった体を覆う柔らかな銀の毛並みは艶やかに月光を反射し、節のある二対の角は大きく、天を穿つように威厳を醸している。
父のような体躯になるのは当分先だが、いつか父のようになれたら、と思う。
…恥ずかしさから、彼がそれを口にすることは絶対にないが。
「少し、飛んできてもいいかな…?」
「ああ。お前の好きにするといい。」
お互い目線を合わせないまま、名もなき竜はふわりと夜空に浮かび羽ばたいた。
「フェオドール、あの子は?」
しばらく月を見てから中へ戻ると、寝ていると思っていたアルテミシアに声をかけられる。
「少し飛んでくるそうだ。」
だから心配するな、とフェオドールは優しく声をかける。
隣に横たわると、アルテミシアが甘えるように首をもたれさせてきた。
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