第一章

8/19
前へ
/45ページ
次へ
「明日から、寂しくなるわね…。」 独り言のように、そう呟く。 あの子は夫婦の初めての子だ。 アベリオールは基本的に一度に一つの卵しか産まず、その子が巣立つまで次の子を孕むことはない。 全ての愛情と知識をその子に注ぐために。 「…あぁ。そうだな。」 これから先、親である彼等にできるのは、ただ息子の幸せを祈るだけだった。 … …… ……… 突然の音に少女はびくりと肩を揺らし、音がした茂みを怯えた目で見つめる。 月明かりでいくらか明るいとは言え、木々の影には闇が澱み、何かの姿があったとしても認識することはできない。 「う…く……。」 激痛に耐え、なんとか立ち上がる。 眠りは傷付いた心を少しだけ癒やしてくれたようで、少女の目には強い意志が籠もっていた。 まだ死にたくない。こんな訳も分からず、独りぼっちで死ぬのは嫌だ。 甘やかされて育ってきたであろう少女が、年齢よりも少しだけ大人びた表情を見せる。 とにかく、この森から出なくては。そう決心し、一歩前に踏み出す。 瞬間、全身を激痛が駆け巡り、声も上げられないまま倒れ込む。 言葉にならない声を上げ、荒い息を繰り返す。 少女が今までに感じた痛みなど可愛らしい程の激痛に、大粒の涙が溢れる。 短いが気が遠くなる程の時間をかけ、なんとか痛みをやり過ごし、乱れた呼吸を整える。 (いたくて、あるけない…。) 少女の額には脂汗が浮かんでいる。指先は痛みに震え、うまく力が入らない。 少女が考えている以上に、怪我の具合は酷いようだった。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加