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「明日から、寂しくなるわね…。」
独り言のように、そう呟く。
あの子は夫婦の初めての子だ。
アベリオールは基本的に一度に一つの卵しか産まず、その子が巣立つまで次の子を孕むことはない。
全ての愛情と知識をその子に注ぐために。
「…あぁ。そうだな。」
これから先、親である彼等にできるのは、ただ息子の幸せを祈るだけだった。
…
……
………
突然の音に少女はびくりと肩を揺らし、音がした茂みを怯えた目で見つめる。
月明かりでいくらか明るいとは言え、木々の影には闇が澱み、何かの姿があったとしても認識することはできない。
「う…く……。」
激痛に耐え、なんとか立ち上がる。
眠りは傷付いた心を少しだけ癒やしてくれたようで、少女の目には強い意志が籠もっていた。
まだ死にたくない。こんな訳も分からず、独りぼっちで死ぬのは嫌だ。
甘やかされて育ってきたであろう少女が、年齢よりも少しだけ大人びた表情を見せる。
とにかく、この森から出なくては。そう決心し、一歩前に踏み出す。
瞬間、全身を激痛が駆け巡り、声も上げられないまま倒れ込む。
言葉にならない声を上げ、荒い息を繰り返す。
少女が今までに感じた痛みなど可愛らしい程の激痛に、大粒の涙が溢れる。
短いが気が遠くなる程の時間をかけ、なんとか痛みをやり過ごし、乱れた呼吸を整える。
(いたくて、あるけない…。)
少女の額には脂汗が浮かんでいる。指先は痛みに震え、うまく力が入らない。
少女が考えている以上に、怪我の具合は酷いようだった。
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