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退屈で…それでも平和であることは間違いない、いつもと同じ単調な毎日。
そんな日々が明日も、ううん、いつまでも続いていくと、あの日あの瞬間までは思っていた。
突然の閃光。あまりの眩しさに、反射的に瞑った目。直後響いた大きな音。隣から聞こえた小さな悲鳴。
何が起きたのかもわからないまま、俺は意識を失った。
…
……
………
切り立った崖。深い谷底。もし失敗したら、間違いなく、死ぬ。
実際に死んでいく仲間達も、この目で今まで見てきた。
ゆっくりと首を後ろに回し、仲間達の中から両親の姿を探す。
わずかに視線をさまよわせると、今にも泣きそうな母親と目が合った。
隣にはそんな母を守るように支える父親の姿。
いつもと変わらぬ眼差しだが、その表情は硬い。
その姿を胸に刻み、再び谷底に顔を戻す。
…大丈夫。必ず成功する。
ゆっくりと体を谷底に向け倒し、ついに俺の足は地を離れた。
「ぐっ…!」
体にかかる落下の重力に、死の恐怖が増す。
刻一刻と近付いてくる木々の緑に、パニックを起こしそうな頭を、必死に理性で落ち着かせる。
(落ち着いて、空気中にあるわずかな魔力を感じとる。そして、自分の体内の魔力と練り合わせ、練りあがった魔力で全身を包む。)
今日のために、両親が教えてくれた事だ。
自分の体の外側に薄い魔力の膜をイメージすると、全身に感じていた風が、消えた。
(あとは己の力を信じて…!)
睨むように見ていた視界が反転し、木々の緑から空の青に変わる。
俺は雄叫びを上げると、背中の翼に力を込め、強く羽ばたいた。
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