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[chapter 1]
後ろ手に縛られた手首が、粗末な縄と擦れてピリピリとした痛みを発する。
視界を覆う布は、厳重に締められているようで、どれだけ頭を振ってもずれる事がない。
どうして…。疑問を投げかけたくても、猿ぐつわをされた状態では、ただの呻きにしか聞こえない。
年端もいかない少女の耳に届くのは、数人の男の声。
その中には、とても聞き慣れた…父親の声が混じる。
「まさか、自分の子が魔物に取り憑かれた子だったなんてよ…。」
「気付かねえのも仕方ね。魔物と言っても見た目は普通の子どもだかんな。」
「早いとこ処分しちまわねぇと、村のみんなが喰われちまうんだぞ。」
「そうだ。お前さんには悪いけど、魔物は魔物のとこに置いてくのが一番だ。」
会話の中で、度々登場する「魔物」という不吉な単語。
今、この場にいる大人達が、少女に対して友好的ではない事は、幼いながらも彼女は敏感に感じ取っていた。
いや、幼いからこそ、か。
だが、その理由が少女にはわからない。
なぜ優しかった両親がこんな仕打ちをするのか。
なぜ可愛がってくれた村のみんなが、突然自分を嫌いになったのか。
そうだそうだと囃す声に、ため息が一つ混じる。
「……仕方ねえ…よな。」
ひどく落胆した父親の声を最後に、少女の耳に届くのは自分から離れていく足音だけになった。
そして、その足音すら聞こえなくなり、少女は自分が一人置いて行かれたのだと理解した。
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