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「うーっ!!」
一人森の中に置き去りにされた不安からか、無理やり手首の戒めを解こうと、腕をがむしゃらに動かす。荒縄に擦れた手首の皮が破れ、血が出ているのも構わずに。
しばらくそうして暴れていると、唐突に両手が自由になった。
その勢いのまま、目隠しと猿ぐつわをむしり取る。
少女の後ろでは木に括り付けられていた縄が、結び目で千切れて落ちていた。
粗末だったのが逆に幸いしたのだろう。そうでもなければ、子どもの力で縄を千切るなんてできるはずもない。
「…いたい……。」
赤く血に濡れた手首に小さく呟くと、見る見るうちに目から涙が溢れた。
「いたいよ……お父…さん。お母さ…。」
少女は泣きながらも、ゆっくりと立ち上がる。
なぜ、自分は置いて行かれなくてはいけないのか。
どうしてこんな目に遭わなくてはいけないのか。
少女にその答えはわからない。けれども、
(おうちに…かえりたい…。)
ただ、それだけを願い、辺りを見回す。
鬱蒼とした森の中、どっちを向いても木々しか見えず、村の方角さえわからない。その上、村にいたときは真上にあったはずの太陽も、空が朱くなる程ではものの薄暗くなってきている。
少しずつ色濃くなる暗闇に怯える少女の耳に、何か雄叫びのような獣の鳴き声が響いた。
実際、それは遠くかすかに聞こえた程度で、大人であれば自分に危害を加える可能性が低いことは容易にわかるものだった。
しかし、村の外など全く知らない子どもに、そんなことがわかるはずがない。
闇への恐怖と相まって、たちまちパニックを起こし、右も左もわからないまま少女はただ前に向かって駆け出していた。
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