78人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
涙と恐怖でろくに前も見えないまま、ただひたすらに自分が前だと思う方に向かって走る。
粗末な衣服は時折小枝に引っかかり、ところどころ裂けて、剥き出しになっている腕や足にも、同様にしてできたいくつもの引っかき傷が、赤く血を滲ませている。
「あっ…!」
ガツッと爪先が何かに引っかかり、勢いよく倒れこむ。
体を支えようと反射的に突き出した手のひらと、転んだ時に擦った膝が、ズキズキと痛む。
一度痛みに気付くと、体中の傷から痛みを感じ、うつ伏せたままの少女の目からまた新しい涙が溢れた。
そこに響く何かの声。
耳慣れない言葉は、少女には全く理解できない。それが言語なのかどうかすら、少女にはわからなかったが、もしかすると大人達がよく話す「魔物」の鳴き声かもしれない、と瞬間的に思った。
それに何より、最初に聞こえた鳴き声よりも近く、はっきりと少女の耳に届いた。
痛みのおかげでいくらか落ち着きを取り戻しつつあった頭は、再び死の恐怖にパニックを起こす。
「いっっ…!…たい…。」
転んだ拍子に脱げた靴もそのままに立ち上がって駆け出そうとするが、足首を捻ったのか脳天まで突き刺さるような激痛に、そのままうずくまってしまう。
恐る恐る足首を見ると、無惨にも赤黒く腫れ上がり、軽く力を入れるだけで激痛が走る。
もう走って逃げるどころか、歩くことすらままならないという現実に、少女は自分の心が急速に冷めていくのを感じた。
それは、諦めと…絶望。
さっきの声の主に殺されなかったとしても、この足では家に帰ることも…いや、それ以前に森から出ることすら出来ないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!