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文官、武官、貴族や武人達の邸宅が建ち並ぶ、煌びやかな都。その片隅に、賤民達の住まう町があった。 そこの貧しい民達は、日々の糧を手に入れるのさえ至難であり、雨風を防ぐ家など、持っている者の方が少なかった。 その町の中の一軒家。 周囲の家同様、狭く汚く古い襤褸だが、そこには珍しく門が建っている。 狐狸の住処かと思えるほどに荒れているが、家の中からは煙が立ち上っている。家主が暖をとっているか、煮炊きでもしているのであろう。確かに人が住んでいるらしい。 その小さな門前に、一人の女が立っていた。 それはあまりに場違いな女であった。 美しい白の正絹の衣に銀の耳飾り。翡翠と真珠の簪を麗しく挿している。貴族の女であることは一目瞭然だった。 しかも、彼女はとても美しい。そして、若く、瑞々しく。 その紅をほどこした唇から、頼りない溜め息が一つ、ほろりと零れた。物思いに耽ったような顔の表情。何とも憂わしげにその家を眺めていた。
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