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一変して穏やかな時間。夢の境界を永くさ迷った。
胎児の頃を思い起こす程に、俺は浅く、でも深く眠っていた。
──だが不意に目を覚ます。
首を空にむけて高く伸ばし、辺りの気配に集中する。
風向きが変わっていた。そのお陰で奴の独特の脂臭い匂いを鼻に感じる事が出来た。
匂いの方向へ視線を移すと、奴は平原に立つ低い草に身を屈めている。いつの間に──。
こんなにも接近を許すなど、気を配っていた筈だが、思うより深く寝ていたのか。
即座に立ち上がり、俺は奴と逆の方向へと飛び出した。仮眠からの覚醒に、走り出しで脚がもつれそうに為ったが、気力で地面を踏み抜いた。
既に日の光は遥か真上。空気が熱く、日差しが容赦なく照り付ける時間。
奴はまだ諦める様子は無い。草むらから飛び出すと、再度おれを追って走って来た。
危なかった。風向きが変わらなければ、気が付かづに捕らえられていた。
ようやく身体の目覚めが追い付き、俺が更に強く踏み込むと、景色が高速で流れ去る。
休んだ分だけ脚の調子は良い。ただ、思ったより日差しが真上に来た。これでは地面から熱が込み上げ体力を奪う。
あの時に、朝露で喉を潤しておくべきだった。後悔が頭を過ぎる・・・。
加速によって、また奴との差が開いて行った。俺の自慢の脚力ならば追いつかれはしない。
俺は追跡者に一度向き直すと、また脚の回転数を上げていた。
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