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レムで最も勇敢で、最も雄々しい俺が、レムの長旅を先導する。俺が歩けば皆がその後を追う。
風が乾いている。もうすぐ乾期が近い。この辺りの草花に着く朝露では、もう喉を潤すには心許ない。
俺はレムを先導しながら、新たな水辺を求め、永遠と続く過酷な旅を4本の脚で踏み締める。
時々、レムの周囲から、血の匂いを漂わせた、牙を持つ者の気配を感じ取れる。
奴らは、俺やレムの家族達の血肉を求めてやって来る。いつも飢えた表情で。
身を屈め、気配と殺気を限りなく押さえ込み、ゆっくり。ゆっくりと忍び寄る。
そしてレムの後方で、家族の叫び声が響き渡る。周囲に緊張が走り、皆が一目散に駆け出していた。
命を奪われる悲痛な叫び声。何が起きたのかは直ぐに理解できた。
レムから外れた若い仲間の一人が、奴らの牙に掛かってしまった。
喉元に突き立てられた奴らの牙が、若き仲間から呼吸を奪ってゆく。
次第に、抵抗する力を失い。全身から命が失われ始めると、次々に奴らが数を増やし、その一人に群れて肉を啄(ついば)んでいった。
その光景を眺めながらも、俺には落胆の色を、微塵も感じる事は無かった。
家族を補食者に奪われる事は日常。俺達は、生きる事の隣には、常に命の危険が付き纏う事を理解しているのだ。
死を間近に感じながら生きる。
悲しみは無い。彼もまた、このウユキチの大地に返って行ったのだ。
さだめとか、運命などでは無い。俺達はこうして命を繋いで行くだけ。弱れば肉になり。大地のマナに帰る。
そして彼の死が、多くの若い仲間達を救ってくれたのだ。俺は彼の死に感謝していた。
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