苦情受け付け係

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「はい・・・。はい・・・。その猫はつまり・・・」  彼はおばさんの言葉に耳を傾けながら、その内容を紙に書き上げていた。一応、陰口とはいえ市民からの苦情なので報告書をまとめていた。その手際の良さに、私はつくづく関心した。  結局、おばさんの話は二十分にも及んだ。人一人の話を聞いていた私は、すっかり疲れてしまったが彼の表情には疲れの色など見えなかった。おばさんの方も話すことが無くなったらしく、満足げに、 「ああ、スッキリした。ありがとうね。また今度、来るから・・・」  そう言って、おばさんは窓口をあとにした。 「はい」  彼はやはり無表情のままで、受け答えをして、おばさんを見送っていた。 「どうですか?」  私の傍にいた役場職員が誇らしげに聞いてきた。  私はただただ、彼の根気強さと集中力に呆れ、何も言えなかった。どうすれば、中身のない話でも、そんなに長く聞くことができるのか。 「すごいの一言ですよ。よくあれだけ、話を聞くことができますね。何か秘訣でもあるのですか?」 「まあ、彼なりの特徴といいますか、特性といいますか」  私が彼について訪ねるも、職員は個人情報だと言って詳しくは教えてくれなかった。ただ、無表情で人の話を聞く。それは、簡単そうに見えて誰にでも実行できることではない。私だって、それが出来ずに何度も失敗してきたことか。  私が驚いていると、窓口に次の人がやってきた。紋付きの袴を履いた老人だ。顔は険しく、髭を蓄え厳しそうな様子が私にも伝わってきた。昔からよくいる頑固者だろう。 「おい!貴様!これはどういうことだじゃ!!」  老人は窓口にやってくるなり声を荒げ、手にしていた杖で激しく窓口の机を叩いた。  時々、こうした市民がやってくる。対応の仕方次第では、役場の態度が気に入らないと、暴れ出すから大変だ。場合によっては、ケガを負わされることもあった。 「こ、これは・・・」  老人の態度からしてみても、良好ではないムード。このままでは、彼の身に危険が迫る。すぐにでも、助けにいかなければ。  私は立ち上がり、助けに向かおうとしたが、職員に止められた。 「様子を見ていてください」
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