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こうした事態には慣れているのか職員は落ち着いていた。職員に言われ、私は彼が心配だったが様子を見続けることにした。
窓口では杖が激しく叩かれていた。あまりも、強く叩くので杖はしなっているのが、ここからでも良く分かる。それを、間近で見たらきっと、私は恐怖で震え上がることだろう。しかし、彼は冷静だった。表情一つ変えることなく老人を見ていた。
そして、
「落ち着いてください。いったい、何が気に入らないのですか?」
彼は落ち着いたままで、興奮している老人に聞いた。目の前で、杖が振り回されているというのに、身震い一つしないとは彼の肝は相当、据わっているようだ。
彼に言われると、老人はニヤリと笑った。
「若いの。目の前に杖を振り回されても動じないとは、なかなかやりおるのう・・・」
老人は彼を牽制したつもりでいた。だが、暴挙に一切動じなかった彼を老人は気に入ったようだ。
職員が言った通り、私が出向かなくても問題は何一つ起こらなかった。老人は落ち着き、彼に勧められ椅子へと座ると、さっそく怒りの原因を言い始めた。
「まず、これを見ろ」
老人は一枚の紙を彼に差し出した。
ここからでは、老人が彼に何を差し出したのか分からない。すると、職員は推測であるが、説明してくれた。
「おそらく、あれは道路の区画整備の計画書でしょう」
「分かるのですか?」
「はい。彼は町でも有名な方ですから。区画整備で彼の家の塀、その一部をどうしても壊さないといけなくなり、お願いしたのですが、こっぴどく文句を言われましたからね。恐らく、直談判でしょう」
確かに、頑固者の中には自分の家に少しでも他のモノが入り込むと文句を言う人はいる。塀一つ分の土地でも近隣トラブルに発展する時代だ。決して珍しいことではない。
「実体に、塀は壊させん!!先祖代々守ってきた土地だ!!絶対に踏み荒らせないからな!!」
「落ち着いてください。区画整備の件ですか・・・」
老人の苦情を受け、彼は老人からの区画整備地区が明記された紙を受け取ると、小さな備え付けの棚から道路計画をまとめたファイルを取り出し調べ始めた。
道路計画に関する市民情報は細かい。私ですら、その全容を把握しきれていない。だから、調べるのにも時間が、どうしてもかかる。
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