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部署が違うからと言ってしまえば、そこまでなのだが、時間を埋め合わせる為にも相手には一旦、帰宅してもらうしかない。けれど、その方法では市民は納得せず、怠慢や不手際だと騒ぎ立てる。
しかし、彼は違っていた。ほんの数秒で老人が提示した区画整備地区に関する資料を取り出した。
「分かりました。山田さんの家ですね」
彼は無表情のまま、取り出した資料を老人に見やすいように見せている。老人に文句を言われてから数秒。私とは比べものにならない早さだ。
その手際の良さに老人はまた関心していた。
「随分と手際がいいようじゃな・・・」
「恐れ入ります」
「少々、無愛想なのが気になるがまあええじゃろ」
老人は無表情な彼を小馬鹿にしたような言い方をする。普通だったら、気分を害されるが、彼は老人の言葉に言い返そうもせず、無表情のまま区画整備について話し合った。
老人は大事な土地だという主張するのは変わりなかったが、彼は表情一つ変えることなく老人を説得し続けた。
「この件に関しましては、私も市長が・・・・と・・・交渉を・・・」
彼はペンで区画整備の地図に書き込みながら、妥協案を探していた。一、職員がここまで老人と話し合うのは考えられない光景だ。大抵の場合は、待合い時間を優先して面倒な議題は先送りするが、彼は真剣に唐人と話し合っていた。
待たされている方は、どうしているのだろうか。気になっていると、職員が補足してくれた。
「元々、苦情受け付け係は市民からの苦情を受け付ける部署です。人、一人、一人の苦情の内容は違います。ですから、ほとんどの市民は時間が掛かることを見越しています。また、待ち時間の効率を良くする為、時間がない方は用紙に苦情の内容と開いている時間を指定してもらっています。そこから、可能な時間を導き出して、彼が応対しています。まあ、一番は彼の態度が市民に好評だろいう点ですかね」
「これは、全部、彼がやっているのですか?」
「はい」
職員は当たり前のようにいった。同じような部署でありながら、私はそこまで気は回らなかった。彼は朝から夕方の定時まで市民の話に耳を傾け続けている。普通なら、それだけで疲れ果て他のことにまで手が回らない。けれど、彼は時間がない市民の為に時間を調節していた。それを、一人でやっているというのだから脱帽するしかない。
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