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「ああ、お前の目覚ましな、止めた止めた。」
楽しそうに言う姉ちゃん。
そして続ける。
「いや、我ながら頑張ったぞ。あの悪戯に全てをかけたと言っても差し支えない。お前の部屋に早朝五時から張り込んでな、目覚ましを凝視していた。そして正に秒針が天を向くその瞬間ときたら!動き出すハンマーが右側のベルを打つ!鳴り響く高音!私は驚きの瞬発力で目覚ましのスイッチを切った!お前は僅かに聞こえた目覚ましの断末魔とも言うべき音に身動いだが、目覚めることはなかった…。私の勝利だ!私は歓喜にうち震えながら、まだ興奮冷め遣らぬ場内を後にしたのだ…!」
いい笑顔で語り終えた姉。
なんだろうこの胸に沸き上がるものはそうかこれが殺意か。
句読点も忘れる程にウザい姉をどうしよう。
ほんところしたい。
付き合いきれないよ、ママ。
「弟の運命さ。」
「そんな運命、俺がぶち破ってやる!」
「無理だ!運命を変えようなんて!神に逆らう気か?!」
「喩え神に背くことになったとしても…やるときめたんだ」
「…正気か」
「当然だろ」
「…なら、もう止めない。己の信ずる道を行け。お前は…そういう男だ。」
「ああ。行くさ。」
「ただ、ひとつだけ約束しろ。」
「…?」
「死ぬな…!絶対に生きてここに帰ってこい!」
「…当然だろ」
ってえ!
「なんの話だぁぁああああ!!!」
すっげーなげー乗り突っ込みしちゃったよ!
「本当に正気だったか?」
「違いました!」
「だろうよな。ていうか私と戯れていていいのか?」
「はっ!」
しまった!姉ちゃんにまともなこと言われた!
じゃなくて!
「遅刻!」
大変なことに気付いた俺は、少女漫画よろしく食パンをくわえて家をとびだす。
「いってらー」
「いってきー!」
姉ちゃんに見送られ、やっと正気に戻った遅刻決定な俺はチャリにまたがった。
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