前夜

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で、テーピングを巻き終わったあと、彼にここでジっとしておくように言われたから、 そこでジっと待っていたら彼が氷のうを持ってきた。 氷のうっていうのは、ケガした部位を冷やすための袋ね。 「どうせ、出るなって言っても出るだろ。 ギリギリまでアイシングして、次の試合も頑張れよ。 あ、僕の腕時計を貸すからそれで時間見て。 じゃあ僕、サッカーの試合出てくるから。」 そう言いながら、走り去ろうとする彼を、私は思わず彼の手を掴んでひきとめた。 彼は驚いて私の顔を見た。 そのとき、私は耳が熱くなるのを感じて、つい俯いてしまったけど、ちゃんと言いたいことがあった。 「ありがとう。サッカーの試合頑張ってね。」 「お、おう…」 「バスケ、絶対に優勝するから、サッカーも優勝してね!」 「あ、あったりめぇよ!」 何故返事が江戸っ子みたいなのかは、スルーするのが優しさだと判断した私は、 彼の手を放した…多分、正しかったんだと思う。 その後、背を向けたまま照れくさそうに頭をかきながら、 「無茶だけはするなよ。」 と言った彼の姿を見て、私の中で彼に対して抱く想いが好きという感情になった。
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