前夜

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「と、言うわけで、私は彼のことが好きになったのよ。」 「…なんか、意外。お姉ちゃんたちのことだから、一緒に捨て犬の世話したとか、 猫を拾っているのを見たとか、ヤンキーに絡まれているのを彼氏さんが助けたとか、 お姉ちゃんが空から降ってきて彼氏さんが受け止めたとか、 そういうラブコメの王道のなかの王道だと思ったのに…まぁ、今の話も王道なのは変わりないけど…。」 「最後の一つはさすがにおかしいよね!一体この田舎町でどんなことがあれば私が空から落ちるの!?」 「もしくはお姉ちゃんが地面からニョキニョキと生えてくるとか」 「え?そんな話の作品あるの?」 「お姉ちゃん、そこは『竹取物語か!』ってツッコミいれなきゃ。」 「…一本取られたわ。」 というか、咄嗟にこんなボケを振られてツッコミ入れられる人は少ないと思う。 「そういえばさ、お姉ちゃんと彼氏さんは普段はどんな話してるの?」 「ん~~…雑談かな…。」 「例えば?」 「えっと、電話の番号を押すところに♯とか、数字以外のものあるでしょ?」 「うん」 「あれって、いったいどういうときに使うんだろう…とか」 「えっと…恋人同士なんだよね?姉ちゃんたち。」 質問されてなんだか悲しくなってきた。 「ほ、他にもあるんだよ!!」 「どんな話?」 「日本昔話で、猿蟹合戦っていう話あるでしょ? あの話に出てくるハチにもっとスポットを当てるべきだって話なんだけど、 ミツバチって一回針で刺すとそのまま死ぬみたいなの。 サルを刺したら死んでしまうと分かっていて蟹の復讐を手伝うハチ…。 そしてすべてを知っていながら黙る栗、異変に気付く石臼… っていうスゴイ泣ける話になるはずだっていう…どうでもいい話…。」 「…お姉ちゃんたち、本当に恋人同士?」 どうしてだろ、なんだか泣けてくる。 ただ、彼との雑談話を妹に聞かせているだけなのに…。 「ほ、他にもちゃんと…グスッ…あるんだから…!!」 「そんな泣きながら訴えられても…」 …自分でどっちが姉なのか分からなくなってきた。
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