3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「残念だよ、カイル。君は実に愚かな事をした」
リアノークはそう呟くと静かに拡がっていく紅い波紋に視線を落とす。
「君も人か。人は神ではない。神に造られた傀儡に過ぎない」
漆黒の髪の男は地にひれ伏せたその名をカイルと呼んだ金髪の青年の頭に足の裏を当て、思い切り踏み込む。
「惨めだな。人は。だが、私は違う。私はヒトだ。ヒトこそ神だ!私こそこの世界を束ねるべき男。この私の体内を流れる血はまさに神そのものなのだ」
彼以外は誰もいない。
その部屋の中心部にて紡がれる漆黒の髪の男の声はまるで白狼の遠吠えかのごとく高笑いを部屋中に鳴り響かせる。
だが、それも窓ガラスの割れる音で掻き消された。そして眼前に拡がる何かが雪崩れ込んでくる光景、そこに現れた何かに気づいたリアノークは観念したような微笑を浮かべる。
そして肩が、脇腹が、太ももが風穴を空け、そこから生暖かい液体が流れ出す。リアノークはよろめきながらも火照る体を支える。
「ふっ、この世の人類は本当に馬鹿ばかりだ。カイルよ。一時は夢をともにした貴公と来世でも巡り会いたいものだな」
リアノークはそう言うと最後の最後まで自分を止めようとした親友の額に自らの血で紅く染まる掌を乗せる。
「……俺の命が欲しいか?」
そして先ほどのカイルと同じように膝から崩れ落ち、その場に臥せった。動かなくなったリアノークの体からも無数の紅い波紋がカイルのそれと重なるように拡がっていく。
最初のコメントを投稿しよう!