断章1

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「はぁ、はぁ、はぁ、んぐ…くぅ」  逃げていた。  私はただひたすらに逃げていた。 「はぁ、はぁ、な、んで、こんなことに」  耳に聞こえるのは乱れている自分の呼吸、そして耳をつんざくような雨音。バケツをひっくり返したという表現がよく合うほど、いま外は激しい雨が降っている。  その激しい雨が、私の足音と気配を消してくれているから、私はこうしていまだに逃げ続けられるのだ。 「はぁ、はぁ、はぁ、んぐ…ぷはぁ」  後ろを振り替えると、すでに追っ手の姿はなく、私はひとまず呼吸を整えようと、走っていた足を止めた。  なぜこんなことになっているのか、私は実際のところよくわかってなかった。しかし私の体質が、何かを引き起こしたのは確かだった。  何かを引き起こし、そして逃げた。  あの、嘘みたいな存在から。 「私は、悪くないです」  自分を擁護するも、しかし罪悪感は消えない。私が引き起こしたことは、自覚していなくても恐ろしいことだったと認識しているのだ。  だから、  逃げている。  捕まれば確実に終わる。なんせ、私を追ってきているのは、この町の最高責任者。  人目見て感づいた。あれは人間ではない。私の目がそう捉えたから間違いない。 「はぁー、はぁー」  伝う汗と雨水をぬぐいながら息を整える。  辺りを見渡すと――といっても狭い路地に入ってしまい見渡せても前後だけだが――なにかおかしいのに気がついた。  しかしそれでも何がおかしいのかがわからなかった。 「そろそろ大丈夫ですかね?」  独り言を呟いてから立ち上がる。来た方へ戻るのはあり得ないので、反対側へ歩き出す。
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