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「はぁ、はぁ、はぁ、んぐ…くぅ」
逃げていた。
私はただひたすらに逃げていた。
「はぁ、はぁ、な、んで、こんなことに」
耳に聞こえるのは乱れている自分の呼吸、そして耳をつんざくような雨音。バケツをひっくり返したという表現がよく合うほど、いま外は激しい雨が降っている。
その激しい雨が、私の足音と気配を消してくれているから、私はこうしていまだに逃げ続けられるのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、んぐ…ぷはぁ」
後ろを振り替えると、すでに追っ手の姿はなく、私はひとまず呼吸を整えようと、走っていた足を止めた。
なぜこんなことになっているのか、私は実際のところよくわかってなかった。しかし私の体質が、何かを引き起こしたのは確かだった。
何かを引き起こし、そして逃げた。
あの、嘘みたいな存在から。
「私は、悪くないです」
自分を擁護するも、しかし罪悪感は消えない。私が引き起こしたことは、自覚していなくても恐ろしいことだったと認識しているのだ。
だから、
逃げている。
捕まれば確実に終わる。なんせ、私を追ってきているのは、この町の最高責任者。
人目見て感づいた。あれは人間ではない。私の目がそう捉えたから間違いない。
「はぁー、はぁー」
伝う汗と雨水をぬぐいながら息を整える。
辺りを見渡すと――といっても狭い路地に入ってしまい見渡せても前後だけだが――なにかおかしいのに気がついた。
しかしそれでも何がおかしいのかがわからなかった。
「そろそろ大丈夫ですかね?」
独り言を呟いてから立ち上がる。来た方へ戻るのはあり得ないので、反対側へ歩き出す。
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