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「どちらへ行くんですか?」
若い男の声が狭い路地に響く。その声は、私を絶望に導くものだった。
「ど、どこに…!?」
前にもうしろにも姿は見えない。
「なら、上?」
そこに、スーツ姿の青年がいた。
「ふふふ、お嬢さん。あなたがしたことはこの町では重罪です。あなたならお分かりでしょう」
この狭い路地は、五階建ての建物と二階建ての建物に挟まれた隙間。彼は二階建ての屋上に足を組んで座っている。まるで私のことを見下すように、それは私のことを人間としては見ていないようだった。
「初めまして。私はこの町で町長をしています神流と申します。いごお見知りおきを」
男はそう言うとそこから飛び降りた。二階建てとはいえ二十メートル以上あるそこから。
それだけでただの人間ではないないとわかる。
私は唾を飲み込む音が聞こえた。それが自分のものだと解ったが、しかしそれでも乾いてしまった喉が潤うことがなかった。顔も体も雨で濡れていたが、しかしそれとは別に冷や汗で体が濡れていく。
この目の前の人を見ていると、恐怖しか沸き上がってこない。
「それでは、申し訳ないですがここで観念してもらいます」
神流と名乗った男がこちらに向かって歩いてくる。私にできることはせいぜい後退りだけだった。
男は、怯える私の頭に手をのせ、くしゃくしゃと髪の毛を撫でる。
それだけで、私は自分の人生がここで終わることがわかった。
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