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「ああ、タバコですか」
納得のいく理由ですね。というか露理(つゆり)さんがそれを忘れるという方が珍しいことですよ。肌身話さずが基本ですからねぇ。
「では、お茶でもいれて待ってましょうか」
「そうですね、お願いします」
私はひとまず鞄を自分の部屋に持っていく。ああ、いい忘れてましたね。ここには私も住んでいるんですよ。住み込みの仕事をしていると考えれば、まあわかりやすいですかね。
「調査の方は進んだんですか?」
キッチンに移動しながら神流さんに尋ねてみる。今回は、難しくないけど厄介な仕事が舞い込んだんですよね。
「はい。どうやら御庭さんがなにか解決策を見いだしたようですね」
「流石ですね。やっぱり私なんかよりよっぽどできる人ですよね」
知ってはいるけど、毎回こうして手を煩わせている身としては少し心苦しくもある。
「まあ適材適所ですよ、由香さん。彼女は探知関係が得意ですからね。貴女は現場で頑張れば良いんですよ」
「うーん、そうなんですけど。私もいい加減そういうことも出来るようになりたいと思うんですよ」
「おや、珍しいですね。そんなことをいうとは」
神流さんの声色が、少し驚いた風に変わる。それだけ私の発言が珍しかったのだろう。
「ほら、私ももうこの立場になって長いじゃないですか。たまにはそんなことも思うわけですよ」
「確かに長いですね。では今度御庭さんに相談してみたらどうですか?」
「神流さんは教えてくれないんですか?」
いれたてのお茶を神流さんの方へ持っていきながらそう尋ねてみた。これは下心ありです。えへっ。
「私の性格上、教授には向いてないんですよ。それなら御庭さんに教わった方が効率がいいですよ」
それに、と神流さんはお茶を喉に通してからこうもいう。
「私とあなたとでは種類が違いますからね。同じ御庭さんの方が、いろいろと良いでしょう」
「そういうものですかね」
「そういうものですよ」
残念。ふられちゃいましたね。
神流さんは美味しそうにお茶を飲む。私もそれにならいお茶を飲む。しかし私の湯飲みに入ってるのは、お茶じゃなくて紅茶なんですけどね。
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