0人が本棚に入れています
本棚に追加
『さよなら』
「さよなら」
昔、付き合っていた彼女はそういった。
もう会うこともないんだろうな、
僕はそう思った。
そんなこともあったな、と、
それから10年経った今日、
彼女は僕の上司になった。
別に毎日が変わるわけじゃないけれど、
新しい日々に期待するわけでもないけれど、
ほんの少しだけ、
今を生きてるんだと思った。
昔の僕が見たら笑うんだろうな、
あの頃と違って真面目な顔をした彼女を。
泣き虫の癖に強がりで、
そんな彼女を好きだった僕は。
帰り際、彼女は僕に囁いた、
あの頃とは違う、笑顔で、
「さよなら」
僕は彼女が去ってから、
短く息を吐く。
懐かしい日々と共に、
今。
「さよなら」
最初のコメントを投稿しよう!