第1章 生憎

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ありえない。 こんなガキがわたしの膝蹴りをまともにくらって笑ってられるはずがない。 コイツもなにか武道をしてるのか!? そうでなきゃ………。 「そ、そうか。大丈夫なら、いいんだが」 駅員は髪木の釈明に納得したのか、この場を去っていった。 もちろんそうしてるうちにもわたしは電車に乗り込んでいた。 「仕方ない。電車には乗ってもいいとするけど、僕から離れるようなことは絶対にしないでくれる?僕とあそこの優先座席に座ってもらうから」 「は?なんでお前なんかと一緒に座る必要があるわけ?」 電車の扉が閉まる。 「さっき言った通りのことだから。早くこっち来て」 「いやよ。ウザいからあっち行って」 電車は動きはじめ、徐々に加速していく。 「飛鳥様。もうすでに始まってるんだよ」 「何のことよ、知らないからそんなこと!!勝手なお前の妄想話に付き合ってられないわ!!いますぐわたしの前から消えて!」 他の乗客から注目をあびるなか、わたしはさらに髪木を突き倒し、別車両に移動しようとする。しかし。 「もう。いい加減にしてほしいのはこっちだよ。少しくらいひとの言うことを聞けるようになったほうがいいよ。今回は仕方ないから僕があそこの優先座席まで連れていってあげる」 えっ!!!!! ウソ!!なにこれ!! 動かない!!体がまったく思うように動かない!! 叫んで助けを求めようにも声すら出せない。 一ミリたりとも。 「はい。取り敢えずはここでじっとしていて貰うよ」 気付けばわたしは、髪木と2人で優先座席に座っていた!! いつのまに移動したの!? わたしはさっきまで、優先座席とは反対側にある貫通扉を開けたとこなのに!? そのあと体がまったく動かなくなったかと思えば、気付けばわたしはここに居た。 「心配しないで、僕の催眠術だよ。脳の一次運動野と松果体[かしょうたい]を少しいじらせてもらってるだけだから。飛鳥様の降りる駅までしばらく我慢してもらうよ」 すると髪木自信も催眠にかけられたかのようにボーッとした表情になる。 いつも朝に見る顔だ。 まるで体を残して精神だけがどこかにいってしまってるみたいに。 わたしもほぼ放心状態というか、頭がさっぱり働かない。 一体いま、わたしはどういう状況におかれてるの?
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