第1章 生憎

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また、停まった。 もう何駅目だろう。 乗ってから結構な時間がたつような気がする。 意識レベルのひくい今、はっきりいってそんな勘はもっぱら意味がないとは思う。 それに髪木はわたしが降りる駅に着いたら催眠を解いてくれると言ったが、そもそもわたしが降りる駅を知っているのだろうか。 毎朝電車が同じだとはいえ、一度も目があったことがないというのに。 それに、さっきは完全にわたしを尾行していたみたいだし、そうでないとこんな時間に偶然会うはずがない。 そして、髪木は何者? 不気味とかどうとかの度合いを超えてる。 もはや人間ではないことを疑いはじめ、わたしはこのまま自分の家に持ち帰えられて食べられるんじゃないかとさえ思える。 頭はボーッとしてるから恐怖はあまり感じない。 だけど、確実にわたしの身に危険が迫ってることははっきり分かった。 なにかとんでもない危機が、わたしに襲いかかろうとしている。 「飛鳥様、立って!!」 髪木の声が急にあたまのなかを駆け巡る。 「早く!!いま催眠術は解いたからもう動けるはずだよ。いますぐこの駅に降りて逃げるんだ!!」 確かに体が動く。 「もう駄目だ。足止めすらこれ以上不可能なんだ。急いでここから出て助けを呼ぶよ。早く降りて!!」 なに言ってるのかよく分からない。 いや、それならさっきからずっとそうか。 コイツはよく分からないことしか言ってない。 それならそれでいいのか。 もうなるようなれって感じだ。 わたしは髪木に言われるがまま動こうとした。 しかしその瞬間!! 「ぎゃーーーーーーーーーーー!!!!! 「痛い!!痛い!!痛い!!痛い!!」 全身に凄まじい激痛が走る!! 頭のてっぺんから足の裏まで、余すとこなく炎に焼かれるような猛烈な痛みがわたしを襲う!! 車内の床であまりの痛さに転げまわり、のたうち回る。 「飛鳥様!!」 これは死ぬ!! 本当に死ぬ!! 痛みは一方に増し続け、わたしは泣き叫び衝撃的な痛みに悶絶する!! すでに何回も気絶して、目が覚め、そしてまた気絶して、これを繰り返して。 「あ゛ーーー!!」 自分の気が徐々に狂っていってるのがわかる!! わたしの精神は崩壊寸前のところまで来ていた。
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