第1章 生憎

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「飲まないわけにはいかないんだよ。これ以上高熱が続いたらマズイよ。長時間高熱にさらされていたら何かしらの障害が残るかもしれない。だからちゃんと頑張って飲んで。水分も摂らないと脱水がひどいよ」 むちゃ言わないでよ。 こんな状態でどうしろって言うのよ。 息してるのでやっとなのに。 瞼も疲れてすでに落ちてしまってて、また暗闇の中なんだから。 救急車呼んでくれればいいのに、どうして髪木がわたしを看[み]てるのよ。 「頑張って飲んで。じゃないと死ぬんだよ。少しだけでもいいから、ちゃんと飲んで」 そうしている内に、また意識が遠退いていってるのがわかる。 「これ、すごくよく効く薬なんだ。少しでも飲みさえすればすぐに楽になるから、だから早く」 いい加減にしてよ。 もう無理なんだって。 わたしはどうせ死ぬんだし、もういいのよ。 ゆっくり寝かせて、 髪木。 「…………どうしても無理なの?最後の一踏ん張りくらいできないの?」 …………。 「そう、限界のようだね。それなら仕方ない、もう気管に入ることなんか心配しちゃ駄目なようだから、 「強引なやりかたになってしまうけど、この場合やむを得ないよ。だからちょっとだけ待ってて。他に必要な薬も持ってくるから」 そう言い、髪木はいったんわたしを寝かせてどこかへいく。 そしてすぐに戻ってくると今度はわたしを抱きかかえ、椅子のようなものに座らせた。 これもまた、手慣れた手つきだった。 どこにそんな力があるのか知らないけど難なくわたしを持ち上げたのだ。 そして、わたしの意識が薄れていくなか髪木は言う。 「ちょっと失礼するよ!」 すると髪木は持っている薬をすべて自分の口に入れ、細かく噛み砕いたあと多くの水をふくんだかと思うと、そのままわたしの鼻をつまんで自分の口をわたしの唇に重ね合わせてきた!! そして髪木の口のなかのものが勢いよくわたしの口内に注ぎ込まれ、その生ぬるい液体が気管に入ることなく食道を通り、しっかり胃の中へと収まるのだった。 少しのあいだではあるけど、そのせいで息ができず、わたしは再び、完全に意識を失うのだった。
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