第1章 生憎

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言われた通り、わたしはタッパーのフタを開ける。 「っ!!!!!!!!! 「なにこれ!!」 鼻がもげるような悪臭がわたしを襲う。 中には蠢[うごめ]く黒い虫のようなものが大量に入って波打っていた。 それは凄まじい生臭さを漂わせ、背筋を凍らせるような奇怪な鳴き声を上げている。 「こ……これ、なに!?」 その不快な鳴き声は嫌な予感をわたしに過らせる。 「鮭の小介[こすけ]の稚魚だよ。その稚魚には爆発的に精力を上げると同時に霊力のコントロールなどの集中しなければならないことに対して著しく能力を高める効果があるんだ。だからそれを早くコップに流し入れて全部飲んで!!」 え……こ、これを飲むの!? どぶ川に泳いでいそうな、寄生虫が入っていても全くおかしくない生きた魚の群を………。 そんな……。 「少しきついかもしれないけど全部飲んで!!吐いちゃだめだよ!!」 「そんな。で、でも………………」 これなら腐った生魚を食べる方がましだ。 人の食べるものではない。 「飛鳥様!!」 「あーーーー!分かったわよ、飲むわよ!!こんなのさっきの苦しみに比べたら大したことないじゃない!!いいわ!!全部飲んでやる!!」 わたしはタッパーの中のものをコップに流し入れ、口に近づけ飲もうとする。 だが、コップの中から放たれる凄まじい臭気と見た目のグロテスクさに飲む前から嗚咽[おえつ]をし口を開けない。 完全に体が拒絶している。 髪木はもう何も言わず、ただわたしが飲むのをじっと待っている。 「シァー!!」 わたしはそう叫び気合いを入れる。 そして自分の鼻を摘みコップを中のものをイッキに口内へ流し込んだ!! 「うううう゛ゎ!!」 言葉にいい表せない猛烈な激臭が鼻や口に燎原[りょうげん]の火の如く広がり、舌や歯茎の表面上を暴れるように蠢くものが這いずりまわる。 「う゛ぇ!!」 「吐いちゃだめ!!ちゃんと飲み込んで!!」 必死で喉を動かし口のなかのものを胃へ流し込んでいく。 しかし胃のなかに収まったそれが再び口へと溢れ出てきて、わたしは咄嗟に手で口をふさぐ。 中のものが外に出ないよう無理矢理くい止め、そしてもう一度飲み込んでいく。 「頑張って。飛鳥様。コップのなかのもの全部飲むんだ。もう少しだけ我慢して」 そう言われ、3分の1ほど残った魚の群をわたしはもう一度飲み始める。
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