第1章 生憎

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そして全ての魚を体内に収めると、大量にかいた汗と口周りの汁を袖で拭き取る。 「吐いちゃ駄目だよ」 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、言われなくても、う゛ぇ、分かってるわよ」 だがその一方でわたしはわたし自身に驚いていた。 こんなに苦しいのにひとこと言い返せる余裕があったからだ。 たった今飲んだばかりの、精力剤やらなんやらがもう効果を発揮してるらしい。 「効いてきたみたいだね。その気分悪さもすぐに治まると思う。それより、時間がないから次の段階に移るよ」 テンポが速い。 しかしわたしの決めたことだ、待ってなどと言わない。 「分かったわ。次はどうすんの」 「もう苦しいのはないから心配しないで。ただ難しいんだ」 そう言いながら髪木は自分の頭と体を切断部分で重ね合わせる。 「飛鳥様、僕の首を片手で持って胴体の方とうまく合わせて。そしてその状態のままもう片方の手を僕の首のところを被[おお]う感じで触って」 指示に従い、わたしは右手で髪木の頭部をおさえ左手を首のところに軽くあてる。 「そして、目を閉じて、呼吸を整えて。首に触れている側の腕を全力で力を抜くんだ」 「はぁ!?全力で力を抜くってなによ!?」 「単純に力を抜くんだ、ただ完璧に。頭の中を空っぽにして」 「なにも考えるなってこと?」
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