第1章 生憎

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「そうだよ。なにも考えない、完全な無[む]の状態にしてひたすら待つんだ。それだけだよ!!終わったら僕が合図をするから」 「よくわかんないけど、とにかくやってみるわ!!」 わたしは目を閉じ、深呼吸をして心を落ち着かせる。 そして全身の力を抜いて腕から意識を外すよう試みた。 考えていることを全て捨て、頭の中を空っぽの真っ白にする。 いや、真っ白は無ではないような気がする。 無色なだけじゃ駄目なのかもしれない。 黒でも白でもない、なに色でもない無色に………。 難しい。 必死で頭の中のものを追い出してもすぐに何かが生まれる。 そうしているいちに、知らず知らず何かを考えてしまっていたり。 ふと鼻がかゆいことに気が付いてしまえばその時点で無からはほど遠く離れてしまっている。 これほど難しいとは。 訓練を積まずして出来ることじゃない。 まして普段から落ち着きがないと言われ続けてきたわたしにとっては無理難題すぎだ。 「髪木!!こんなの無理だ。出来そうにない。他になにか方法ないの!?」 「ないことはないけど、そっちの方が何倍も難しいよ。素人のできるようなものじゃないんだ。今やってることが一番簡単で」 髪木の胴体が黒褪せていっている!! 皮膚がシワを帯び、みるみるうちに腐った木のように干からびていった。 そして血で真っ赤に染まっていた布団やカーペットがにわかに色が黒くなったかと思えば、そこから大量の草が生えてくる。 「早く難しい方教えなさい!!」 「わ、わ、分かったよ」
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