第1章 生憎

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こんな狭い部屋でこれだけ探して見つからないってことは、もう可能性としてはあと一つしかない。 髪木の服のポケットの中だ。 それしかない。 でもそれは最悪だ。 今の髪木にどうやって近づく!? どう見たって安易に近づいていい状態ではないだろう。 どうすればいいのよ。 せめて、なにかすきを作れたら足にでも蹴りをいれて動きを止められるのだけど。 しかし、それが出来たとしてもやはり一か八かになってしまうだろう。 もはや触れることができるかどうかも分からないのだから。 とは言え今の状況においてそれをやる他道がないことは明らかだ。 わたしはベットに飛び乗ると部屋の角のところで止まって髪木の体を誘導する。 髪木の体はなおもゆっくりとした速度でわたしを追う。 そして、髪木の体がベッドに近づき片足を布団のうえに足をかけ体を浮かせた、その時!! わたしは右足を繰り出し、ベッドに乗りかかった髪木の片足へ渾身の蹴りをいれた!! ズサッ!! 髪木の足は勢いよくへし折れ、そのまま千切れて部屋の反対側の壁まで吹っ飛んだ。 髪木の体は体勢をくずし、後ろ向きで床に倒れる。 『今ね』 わたしはすかさず、髪木の懐[ふところ]に入り込みズボンのポケットのなかを探る。 それも左右のポケットを同時にだ。 そして、一秒もたたないうちに髪木の体から身を離し、瞬時に距離をとる。 その間、髪木の体は呻き声を少しあげた程度で、わたしは円滑に手筈を終了させていた。 幸いにも失敗はせず、なにもなく無傷で戻れたのだった。 そう、なにもなく。 あるはずの携帯も見つけ出せなかったのだ……。
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