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ただ、正義感あふれるだれかさんに叱られている所は見たことがある。
なにせあの子はいつも同じ所に座ってる。
ただ、座ってるだけだからたまに叱られてる。
いや、普通の座席ならただ座っていたとしても、なにか叱られることはないだろう。
でもあの子は毎日、座ってはならない所、座っていてもその時がきたら退[ど]かなくてはならない所に座るのだ。
どうしていつもそこに座っているのかよく分からないが、あの子にとってはそこでなくてはならないらしい。
まるでそこにしか座れないみたいに、頑[かたく]なにその席で居続ける。
たとえ正義感あふれるだれかさんに席を譲るよう促されても、叱られても、けっしてその席から退くことはいままでなかった。
だからといって、わたしがどうこうあの子に絡む気は更々ない。
ただ、毎日一緒の電車で、最近高校生になったばかりのわたしが少し気になってみただけだ。
気にしないようにしようと思えば、いつでも頭から切り離せる。
わたしにとってはまったくどうでもいい事なのだ。
もちろん、恋心など抱いていない。
あんな背が小さくて、気の弱そうな男の子は、むしろ絡みたくないくらいだ。
それにわたしには好きなひとがいる。
わたしは絶対にその好きな人に振り向かせてやると意気込んでいて、今日も学校でとことん攻めていくつもりだ。
といっても、そんなことは今から話を進めていく上でわたしには結局関係のない話になってしまう。
今から自分の身に起きることに比べたら、そんなことただのお遊びにすらならないし、この物語が終わる頃にはきっと忘れてさえいる。
そう。
わたし郡山 飛鳥[こおりやま あすか]は、いずれ人間の身でない全く異なった存在になってしまうのだから。
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