第2章 番いの弱者

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そこそこ高そうな車だ。 わたしは車についてはあまり詳しくはなく車種はいまいち分からないが、ざっと1000万は超えているだろう。 車体が電灯にてらされ黒く輝いている。 「だけど、私の家まで30分くらいかかるから、眠たかったら寝てもらってもいいのよ。そこまで強制はしないから」 助手席に座ったわたしは車内を見渡す。 「あ、いえ、大丈夫です。狛姓さんのお陰ですごく楽になりましたから」 「あっ、シートベルトはちゃんとつけてね。最近取り締まりが厳しくなってるから。 「えっと、そんなに改まらなくてもいいのよ。自然にしてくれればいいから。敬語も使わなくていいし、名前も苗字で呼ばなくてもいいかな。なんか噛みそうでしょ私の名前」 「そんなこともない………………こともないかな」 「そうでしょ?だから自己紹介するときいちいち力入っちゃったりしてね。そうねぇ、馨って呼んでくれない?私としてはそっちの方が存外、嬉しいかも」 わたしはシートベルトを絞めながら頷く。 「ええ、分かったわ、馨さん」 「そうそう、それがいい。それじゃあ出発するね」 景色を見なければ出発したことに気付かないだろう、とってもスムーズな発進をして車は馨さんの自宅に向かう。 「馨さん?わたしの体のことについてなんだけど」 まだ早すぎる気もしたが、やはり一番聞きたいことだから先に訊こうと思う。 どちらにしても、つまり遅かれ早かれこの事についてはしっかり知らなければならないことであるし。 どう考えても逃げられることでもない。 なにより自分が何者なのか分からないこの状態が一番こわい。 知らなければ楽なことだってあるとは思うけれど、知らないほうが自分にとって危険なこともあると思う。 髪木に飲まされた薬か精力剤かの効果がまだ続いている所為[せい]か、取り敢えず今のわたしは冷静にものを考えられた。 少しくらい早くても、今話をしてしまってかまわないことだと思うのだった。 「郡山さんは強いのね。あんな事があってまだ少ししか経ってないというのに、もう前に進もうとしている。ほんと感心よ。 「そうねぇ、まず私には分からないことが沢山あるのよね。郡山さんが何の憑り代のされたのかとか、なんで髪木があんなみっともない姿になっていたのかとか。 「だからまず、郡山さんの身に起きたことを一部始終教えてもらえるかしら」
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